怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか *2009-08-01更新*

えぬに評価

ことばが持つ意味・文字・音の要素の内、音の持つ潜在意識に働き
かける印象。K音(カキクケコ)のスピード感、S音(サシスセソ)のさ
わやかさなど、ことばのサブリミナル効果の正体について語り、体
系化した本。

DATA

新書
著者:黒川 伊保子
出版社: 新潮社
発売日:2004/07
読書所要時間:約3時間半
ブックオフで105円で購入
参考サイト
黒川伊保子オフィシャルサイト ==Ihoko.com==
怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (新潮新書)


良かった!

  • ことばの要素の内、音の意外な重要性に気づける

発音を喉、口、息、唾液などがおりなす物理現象と捉え、その現象
が持つイメージは、音には意味以上の意味をもたらす。

  • 擬音・擬態語の例に説得力がある

サラサラ カラカラ タラタラ
(サンサン) カンカン タンタン
スルスル クルクル ツルツル
ソロソロ コロコロ トロトロ
子音のK→S→Tに変化だけで、湿度が上がっている感じが分かる。
すごい。

  • 音から日本語の良さが分かる

日本語は音の世界を忠実に表した文字があり、それが母音と子音の
二次元の行列に美しくまとめたれた奇跡的な言語。その美しさがあ
ってこそ、音の意味付け(数値化)が可能になったという。

イマイチ!

  • 実際に発音したくなるので、外読みに不向き

Kの音を出す時、私たちは、喉を固く締め、強く息を出
して喉ブレイクする。


序章 ブランドをつくるマントラ 14Pより

など言われても、人前ではちょっと試せないので、すぐ実感できな
い。

  • 最後に日本(語)人のネガティブさが残る書き方になっている

この絶対語感を持っていることが、実は私たちが、外国
語を習得するのが下手だということに繋がっているよう
な気がする。


終章 日本人は言葉の天才 198Pより

終章のラスト2P。十分なフォローもできない状態では、書いて欲し
くなかった。しかも、さんざん日本語に賛辞を送った後だけに残念。

  • 個々の音の印象について、まとめの表などが欲しかった

本文中で説明だけだったので、一覧できるものが欲しかった。

印象的!

私の大好きな岡野玲子さんのベストセラーコミック『陰
陽師』の安部晴明のセリフに、「この世で一番短い呪と
は……名だよ」というのがある。呪は、相手の思いや行
為に何らかの縛りをかける術である。名は、その名を与
えられた者を生まれたときから縛っている呪なのだと、
岡野・晴明は言うのだ。

第1章 ことばの音 37Pより

人名で、呪いとさえ言えそうな名として普通に思いつくのが「悪魔
」などDQNネームや有名人と同姓同名、当て字が難解あたりで、名
付けの際は注意した方が良いのだろうけど、この本のテーマ的に名
前の音が、気付かないうちにかけられた術(呪い)のように、その人
を縛っている側面があるということは、見落としそうだが、注意し
ておいた方が良い部分だと思った。
シホコは切なく、ミホコは女らしく、チホコはちゃっかり、リホコ
は知的と、字面に関わりなく頭の子音の音の変化だけでもイメージ
が変わり、それにより本人をそのイメージに向かうよう、ゆるく縛
ってしまう可能性があることは覚えておいた方が良さそうだ。

サラサラ カラカラ タラタラ
(サンサン) カンカン タンタン
スルスル クルクル ツルツル
ソロソロ コロコロ トロトロ
中略

※( )内は擬音・擬態語以外の語
縦の変化に注目して欲しい。子音が、S、K、Tへと変
化しているだけの擬音・擬態語のセットだ。たとえば、
湿り気に着目してみると、Kは完全に乾ききっており、S
は微かな心地よい湿り気がある。Tは湿り気があり粘性
も強いのがわかる。
第3章 鍵は擬音・擬態語 81〜82Pより

なんとかコジツケ感なく分かりやすい例を持ってくるかが難しそう
なこの本のテーマだが、この擬音・擬態語の例は良かった。それは、
・みんなが知ってる基本的な事柄で
・単純な切り口(子音という小さな変化のみ)で
・確かな効果を多く見せている
からだろう。
これが、タヌキとキツネを比べ、何故タヌキはお人よし、キツネは
ズルいイメージなのかを分析しても、擬音よりそのイメージの共通
感は少ないし、音も音以外の違いも大きく、いくつ同じような例を
並べてもコジツケ感は消えないと思う。

日本語の「さくら」は、一文字ずつ区切って「さ・く・
ら」と発音しても読みの世界を壊さないが、cherryは、
C・H・E・R・R・Yと発音したら、元の読みは示せない。

第4章 音のクオリア 101〜102Pより

この例え、分かりやすく、即効で実感できる例えで印象的だったの
だが、この本の中で、どういう役割を持つのか、何故でてきたのか
分からなかった。多分、日本語が音の世界を忠実に表していること
を伝えるているのだろうが、文章の流れに必然性は感じなかった。
しかし、こういう単純にすぐ納得できる例が文章中に(仮に大した
つながりがなかったとしても)含まれていると、文章全体の説得力
の上がると思った。著者の意図は分からないが、そういう意味だけ
でも、良い例えだった。

まとめ


本のタイトルは、「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」となってい
るが、この本は怪獣研究本ではないので、その辺りを期待した人に
は残念な結果になる。
では何で「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」というタイトルなの
かというと。
何となく分かるけど、通常意識しない(できない)ことばの音の持つ
質感(本の中ではクオリア)によって起こる、音のサブリミナル効果
というものがあり、それを体系化し、可視化したら、人気怪獣にガ
ギグゲゴが多い(ゴジラガメラキングギドラ)理由に合点がいく。
ということなのである。

普通の人が、名付けに苦心するのは、子どもができた時だろうか。
その時に、この本で説明されている音が潜在意識に与える影響を意
識すれば、斬新で効果的な名づけできるかもしれない。
子どもの他に商品名や行事名など、命名の役目が今後突然やってく
るかもしれない。その時に、この本の考え方は助けになるだろうと
思う。
単純に、「この前出たこの新商品、名前の音が商品と合ってないん
だよね。つまり、・・・」といった話題の種にも使えそう。




漢字、画数にこだわるのも良いけれど
名前は響きでつける時代へ


怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか (新潮新書)
黒川 伊保子
新潮社
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更新履歴

2009-08-01:全体的に修正
2009-07-26:作成