イギリス式生活術




2009/07/25:締めを修正
2009/07/25:DATAを修正


イギリス紳士・淑女の観点から、現代社会を見つめ、「ゆとり」を
持った成熟した人間の行動がどんなものであるかを考える。

DATA

イギリス式生活術 (岩波新書)
イギリス式生活術(新書)
著者:黒岩 徹
出版社: 岩波書店
発売日:2003/01
読書所要時間:約4時間
ブックオフで105円で購入
参考サイト
著者公演依頼のページ 略歴など


良かった!

  • 紳士・淑女のあり方が学べる
  • 世界のユニークなエピソードをたくさん雑学的知識が手に入る
  • 最後の締めがユーモラスでよかった。

イマイチ!

  • タイトルと内容にギャップ
  • ほとんどの例やエピソードが見聞の紹介で体験ではない
  • 字がやや小さく、1行が長く(43字)、段落が長くページに圧迫感

印象的!

フェアの精神が日本で定着していない原因の一つに、フ
ェアという言葉が公明正大、公正だけでなく、公平とも
訳され、平等と勘違いされたこともあるのではないか。
中略
フェアは平等を目指したものでなく、一人一人の力をそ
れなりに評価するという考え方をその中に含んでいるの
だ。平等主義は、実はフェアの精神とは対極にあること
も、考えておくべきだろう。

フェアの精神 43Pより

なるほど。平等とフェア、混同してしまいそうな言葉だが、似て非
なるもの、対局なのかもしれない。そして、フェア(公正)の精神こ
そ重要で尊重するべきものなのだと思う。
時々、平等をたてに無茶と思える要求を通そうとする人たちの問題
を見聞きする(極端な例だが、運動会で全員同時にゴールさせろと
いうモンスターペアレントなど)。その主張に、違和感を覚えるのは、
まさにフェアではないからなのだろう。平等とフェア、履き違えな
いようにして、フェアな精神を心がけたい。


脳腫瘍の少年のエピソード。

よくきかない体で他人の世話をやいた。教師のクランツ
さんは、自分の夫ががんの手術を受けたとき、心配そう
な顔で夫の容体を気遣うブリーチ君の表情を覚えている。
中略
ある夜、頭の痛みに耐えかねて彼は「もう死ぬ、死ぬ」
と叫び続けた。両親は彼の側について離れなかった。だ
が、この苦しみはさらに彼を成長させた。死期を感じで、
「死後の臓器提供」を申し出たのだ。心臓、肺臓、肝臓、
腎臓とすべてを提供するとして、臓器提供の書類にサイ
ンした。
中略
これに若者たちが呼応した。ペンシルべニア州の学生や
若者たちの中で車の免許証に交通事故で死んだ場合に臓
器を提供すると付記する者が急激に増えたのだ。
中略
それから一カ月を経たずして、彼は突然息を引き取った。
中略
あまりに突然だったために心臓は停止したままで血液が
流れず、主要臓器は破壊され、提供できたのは角膜だけ
だった。主治医であるアンディ・フライバーグ博士はい
う。「たとえ彼が臓器を提供できなかったにしても、世
の中に善をほどこした。他人に臓器提供をさせることに
なったのだ。彼はおそらく、私より人の命を救うことに
なるだろう」。

人のために 116Pより

感動のエピソードだ。自分もうるうるときた。ここで最も大きな感
動のポイントはなんだろうと考える。
少年がけなげな姿だろうか、痛みに耐えかね叫けび続ける痛ましい
姿だろうか、少年の善意が若者たちに広がっていくところだろうか、
あっけなく息を引き取ってしまった無慈悲さだろうか、結局臓器提
供できなかった悲壮感だろうか、自分は、主治医の言葉、「彼はお
そらく、私より人の命を救うことになるだろう」のくだりだと思う。
ただ痛ましかったり、かわいそうだったりではなく、苦しみの中で
、がんばったものが報われた。死んでも何かが残せた事に、「良か
ったね」と大きな感動の気持ちが沸くのではないかと思う。それに、
臓器提供できなった悲壮で一度テンションを下げさせて上げている
事。医師の言葉が具体的だった事も重要な要素だと思う。


EUの加盟国が増えると供に、各国語の翻訳、通訳の人員が百人単位
の増員が必要になり、問題化しているという話に続いて。

旧約聖書の時代、同じ言葉を話していた人間が、天にも
届かんとばかりに高いバベルの塔をつくったために、神
が懲らしめに塔を破壊し、言葉を散らして互いに通じな
いようにしたという。いま、その壮大さとグロテクスさ
から「欧州のバベルの塔」とも称されるストラスブール
の新しい欧州議会のビルは、通訳官、翻訳官の重みで破
壊されるかもしれない。

言葉をめぐる難問 207〜208Pより

この本の締めの文章なのだが(さらにあとがきがはあるが)、ユー
モラスな文章で、この本の締めにぴったりで効果的な一文だと思う。
この本では、たびたび紳士・淑女のゆたかさには、いつもユーモア
を忘れないのが1つあるといった事が書かれている。
そう言っておきながら、この本の内容は、いたって真面目で、途中
ユーモアを感じる部分は、そう多くない(ユーモラスな事例は結構
紹介されているが、文章そのものにそれは感じられない)。途中ま
では、固い印象を持ってしまう。
しかし、最後の一文に上の文をを持ってきたことで印象は一変する。
「上手いこと言うな→面白い→良い本だった」としてしまう。ここ
まで極端でないにしても後味のすっきりさはすごい。これまでのユー
モア控え目が、最後の一文を際立させる布石として立ち上がってく
る。最後の一文の魔力を実感できる文章だと思う。


ということで

まだ見ぬイギリスの(日常)生活を取り入れ、自分の生活を豊かにし
ようとかの目的にこの本を取ると失敗だったと思う、と思う。自分
がそうだ。
中身は紳士・淑女の観点で見る現代社会といった感じ。その中で、
紳士・淑女のあり方は学べる。「ドント・パニック」や「フェア」
の精神など見習いたい部分も多い。
また、EUには嗅覚の専門集団がいて、その人らが割り出したヨーロ
ッパの人々の平均的体臭を1オルフとしたとか、「印象的!」の節
で紹介したような感動のエピソードとか、多数のトピックを雑学的
に浅く広く知れるので、そういう読み物として良さそう。欧米中心
で、日本のエピソードがほぼないのも特徴だろう。


「新聞の(1面の)コラムの欧米版を一冊にして、手軽読めるようしま
した。」このフレーズにピンと来た方は、イギリスとか関係なく手
に取ってみると良いだろう。


イギリス式生活術 (岩波新書)
黒岩 徹
岩波書店
売り上げランキング: 394896